この日も天気は晴れて、民宿たきもとを出発した私たちは一路小木へと向いました。私のせいで寝不足となってしまった友人ですが、実はこの日は友人が本土へと戻ってしまう日であり、ふたり旅の最後の日ということでなるべく楽しもうと意気込む私でしたが、友人はやはり眠そう。しかしそのまま走り続け約一時間ほどで小木へと到着しました。
たきもとのおばちゃんの話から、小木は風情ある港町を想像していたのですがそうでもなかったです。しかし小さめながらも田舎らしい商店街があり、それなりに観光地を意識している面もちゃんと見られたのでちょっと好印象でした。観光案内所が周りから大分浮いているオシャレ建築だったのも面白いですが、しかしやっぱり小木といえばたらい舟。のぼりも沢山たっていました。
小木の街並み。右横の「寄れっちゃ」とある建物は後ほど紹介します
小木にはコンビニなどはなく、個人商店が頑張っている印象。平日ということもあって全体的に観光客は少なめ
だったので、小木観光も割とすぐ終わってしまいました。そう大きくない町ですしね。何より疲れてそうな友人のため、あまりお腹もすいていませんが少し早めの昼食をとることとしました。友人も「お〜し行くかぁ」と力なく喜んでいました。
事前情報で美味いという評価が多かったので期待しつつ入店。店内は他に客はおらず、店員の大将と(たぶん)その息子さんが愛想よく出迎えてくれました。
正直そこまでお腹がすいてるわけではないので「なんでもいいかなぁ〜」とつぶやく友人でしたが、佐渡で肉料理を食うというのもどうなんだということで「時価」と書かれた焼き魚定食を注文。何種類かあったので、私はカンパチのカマ焼きと、友人はサバかなんかの塩焼きにしました。
少し寂しく思いながらも友人が乗るフェリーの時間を確認したりしていたら定食が到着。写真はありませんが、値段にしては(確か1700円くらい)少なめな量の定食を残念に思いながら食べてみると、これが結構美味しい。口の中でとろける程に柔らかいカンパチのカマはまさに絶品でしたが、それと同時にご飯もまた美味しい。これまでの宿の夕食でのご飯もおいしかったですが、ここのは特殊な炊き方をしているのかお米がやけにツヤツヤしていてかなり美味かったのを覚えています。友人の焼き魚も少し貰ったのですが、これも脂がのっていて非常に味が良い。口コミの評価の高さがが納得できましたが、やはりもう少し値段が安ければと思いました。
店を出た私たちが次に向かったのは、小木港のすぐ近くにある矢島・経島へ。小木港ではたらい舟に乗りませんでしたが、それはこの矢島でたらい舟に乗るためでした。たらい舟はここいらに三箇所くらい乗り場があるのですが、その中でも最も景観が良いと思われるのがこの矢島だったので、そこで乗ろうと決めていたのです。
原付でのどかな道を走ると目立つ看板があるのですぐにわかりました。看板の案内通りに進むと入江に到着し、矢島のたらい舟乗り場に到着です。
この入江に到着するまでの道のりも結構良い道で期待が膨らんでいましたが、たらい舟に乗れる矢島の入江も想像以上に美しい場所でした。友人も既に疲れと眠気のピークを越えていたようで、ちょっとテンションも上がり気味になってきました。
ともあれとりあえず私たちはたらい舟に乗るため受付へと向かい、チケット(500円)を購入。「外のたらい舟乗り場でお待ち下さい」と言われたので乗り場で待つために外へ出ると、佐渡の民謡が流れ始めました。どうやらここではたらい舟に乗ってる間は佐渡の民謡をスピーカーで流してくれるようで、それが良い演出になっています。
「いいねぇ〜」などと笑いながら乗り場で待っていると、舟漕ぎのおばちゃんがきてくれました。
桟橋からたらい舟に乗る時「なんか怖いな〜」と笑っている友人に「大丈夫だから、ゆっくり乗ってみ」と言ってくれたおばちゃんの言う通り、多少揺れたものの案外すんなり乗船できました(おばちゃんがおさえていてくれたおかげですが)。たらい舟の真ん中には水中が見えるように四角窓のようにガラスがはめ込まれており、その四角形の木枠の角に一人ずつ座るのがたらい舟の乗り方のようでした。最後におばちゃんが乗り込むと、そのまますい〜っと進み始めました。
言わずもがなとても綺麗な海をたらい舟で行くのはかなり面白く、独特な漕ぎ方で進む舟の乗り心地も悪くありません。舟を進めながら「あそこにいるのはずんべ(ブリの幼魚)っていうんだよ」とか「このウニはうんたらかんたら(覚えてない)」と色々楽しく解説してくれて、透視たらい舟を大満喫。
その他色々雑談をしましたが、「昔はたらい舟でこっから本土へ行くこともたまにあって、本土へは大体18時間くらいで着いてたみたいだよ」と言うおばちゃんの話は嘘のような本当の話で、本土にいる恋人に会いに行くためにたらい舟の乗って行くなんてこともあったそうな。ということで「凄いけど途中で沈んだりしそうで怖いよなぁ〜」と至極真っ当な感想を言うと「たらい舟ってのはそこらのボートやなんかよりも波に強いんだよ」「ちょっとつかまっててごらん、ホレっ」と言ってたらい舟を盛大に左右に揺らしてきましたが、確かに水の一滴も入ってこないほどにバランスが良く、傾いたまま横転しそうな気配すらもありませんでした。こんな大きな桶のようなものにここまでの安定性があるとは、中々あなどれません。
その後「ちょっと漕いでみるかい?」ということで、待ってましたと言わんばかりに友人が「じゃあまずは俺から」と名乗りをあげましたが、これはかなり難しそう。
おばちゃんの指導を受けながら漕ぐも、ただ横を向くだけで進まないたらい舟
「おばちゃんの凄さがわかる」と漕ぐのを代わってくれた友人に「一瞬でマスターしてやるよ」と大口を叩いた私ですが、結果は悲しい程に前に進まず「ちゃんとやれや〜」と友人に罵声をあびせられて情けなく終了するという体たらく。思ったよりはるかに難しい漕ぎ方に、おばちゃんの熟練を感じざるおえませんでした。「いきなりまっすぐ漕げる人は滅多にいないよ」というおばちゃんの言葉通り、とても難しかったです
その後おばちゃんに漕ぐのをバトンタッチしてそのまま桟橋へ。たらい舟は入江を一周するコースを取るので大体10分くらい。おばちゃんによっては心ばかりの寄り道をしてくれるらしいので多少差はあるみたいですが、ともかくこの10数分は結構楽しめました。やはり乗るべきは景観の良い矢島のたらい舟だと思います。
たらい舟を思いっきり楽しんだ私たちは周囲の散策へ。ここは入江を一周できるようになっているので、徒歩で散策できます。
入江の左側には赤い太鼓橋があり、そこを渡ると地名になっている矢島ということでした。そこには一棟の別荘があるのですが、ここはもう使われなくなって随分経っているようでかなり痛んでいます。管理も十分にされていない様子ですが、この別荘については色々と面白い話を聞けたので後ほどご紹介します。
「こんなところに住んでみたいな〜」という友人ですが、確かにこんな綺麗なところに住めたら色々面白そうです。この別荘を実際に借りられたら絶対泊まりに来るのに、勿体無いことです。
別荘の奥には更に橋があり、地名にある経島に行ける通路になっているので渡ります。
キメ顔の友人。この後ろの建物は物置として使われていましたが、ここが宿だったら絶対泊まってみたい
経島の方には古い建物や舟の発着場などがあったりして、少し和製カリブの海賊的な雰囲気で面白かったです。上でも書きましたが、あの古い建物なんかをどうにかして利用できたら面白いのになぁと思う次第です。
一通り矢島・経島の観光も終わったところで友人と別れる時間も近づいてきたので、そのまま休憩などもせずにこの日の最後の観光ポイントである宿根木へ。ここは佐渡の中でも有名な観光地で、様々な撮影などにも使われているそうですが、この矢島からほど近いところにあるので大体10分くらいで到着しました。
ここは道沿いに大きな駐車場があり、その道路向かいにたらい舟乗り場があるのでとても分かりやすく、宿根木という地区も妙に木造の建物が密集しているので結構特徴的な場所でした。
宿根木は何組か観光客の姿もあり、駐車場にも結構車が泊まっていたので週末や長期休みの時期なんかは結構人でごった返しそうな印象。さすが有名観光地といったところですが、あまり広くはないところなのでこういうところに実際住んでいる人はそういう環境をどういう風に思っているのか気になるところです。
船大工が作った家屋が並んでいるのが宿根木の特徴らしいですが、それぞれの家屋に使われている板も船に使われていた板材なのだそうな。外観は質素ですが、その色合いや密集具合が重厚な街並みを作り上げているようでとても趣がありました。住民の姿も何人か見かけましたが、とても人付き合いの濃そうな環境ですね。
新旧入り混じったような公会堂。ここでどんな会合が開かれているのだろうか・・・
個人的に最も気になった家屋。「個人住宅なので云々」とあるので中には入れませんでしたが、とても立派なお宅でした。地域の有力者が住んでいるのでしょうかかなり広そうです
狭い石畳の道をウロウロと探索していると何軒かの喫茶店や内部見学ができる家屋もありましたが、あまり時間もなかったのでそこらへんはスルーしました。しかし思ったより狭く、現代的な洗練さの見られない歴史の感じられる街並みは、とても心に響くものがありました。出来れば地元の人と話をしてみたかったですが、それはまたの機会にチャレンジしてみたいと思います。友人もひとしきりの撮影と観光を終えて非常に満足そうだったので、宿根木観光はこれまでにして私たちは再び小木へと向かいました。そこで彼とはお別れです。
宿根木の街並みの道路向かいにある港。たらい船も何組か乗っていましたが、やはり景色は矢島が良いですね。こちらはこちらで楽しそうですが
小木にはすぐに到着。私もこの翌日には小木港から佐渡を発つためここに止まりますが、友人は車の関係もあって両津に戻ってそこから船に乗るということでした。「じゃあこの辺で」「ああ。なんか寂しいな〜」と別れの言葉を告げる私たちですが、こういった遠く離れた土地で友人と合流して一緒に旅行をする機会なんて、もしかすると今後もう無いかもしれないと思うと、なんともいえない寂しい気持ちになりました。少しの雑談の後、貴重な時間を一緒に過ごしてくれた友人に「じゃあ気をつけて」「ああ、そっちも気をつけて」とお互い簡単な言葉を交わして別れ、走り去っていく友人を見送った時の気持ちは、普段中々味わえない経験だったと思います。またこんな旅行をしてみたいものだと、そんな風に思いました。
さて、友人と別れた後はもう宿に向かうだけなのですが、夜食のためにお菓子でも欲しかったのでスーパーを探しに彷徨うことに結果たんぽぽとAコープという小さなスーパーを見つけましたが、結局後者でパンを買い、少し小木の街をふらつきました。(このスーパーは小さなコンビニくらいの規模しかありませんでしたが、港街にあるだけあって鮮魚の品揃えがかなり充実していて面白かったです)
目的もなくブラブラしていると、先ほどは気がつかなかった建物を発見。上の方で書いた「寄れっちゃ」という幟のたっている建物だったのですが、自由にトイレを使っていいということだったので入ってみると、そこが中々面白い施設でした。
自由に飲めそうな飲み物も用意されていました。なんだか面白いぞ・・・
どうやらここは素泊まりもできるそうで、二階は泊まり客のみが行けるようになっていました
中には誰もいませんでしたが、ここはどうやら常時開放している休憩所兼素泊まり宿の施設なようでした。後で調べてみたところ、これは佐渡に住む有志の人たちで運営されている「寄れっ茶屋」というプロジェクトだそうで、島内に40数軒こういった施設があるそうな。ただそれぞれ業種が違うようで、どこでも泊まることができるわけではなさそうですが、全てに共通しているのは「休憩所」である、という部分でしょうか。佐渡に来る前にここの事を知っていたら是非泊まってみたかったですが、それなりの人数で泊まるのも面白そうです。良いプロジェクトですね、頑張って欲しいです。ちなみに素泊まりの料金は2500円くらいだったように思います。
ある程度ブラブラしたら宿へ。この日の宿はたらい舟に乗った矢島にあるのですぐに到着しました。
この日の宿の末広荘は、たらい舟乗り場までにある短い道の途中にある中々リッチの良い宿。徒歩1分くらいで乗り場まで行けるので散歩にもちょうど良いです。
乗り場方面に行くと又七という宿も。最初この宿に泊まろうと電話をしたのですが、休みということで泊まれませんでした
原付を適当なところに止めて早速宿へ。玄関に向かう手前の窓で女将さんと出会ったので、そこからドタドタと玄関に出迎えにでてきてくれました。
「いやぁいらっしゃい」と初っ端からフランクな女将さんはとてもハキハキしたおばちゃんでした。少しの雑談の後「兄ちゃん独身か?」という言葉には笑ってしまいました。民宿といえば宿の人との身近な距離感が最大の長所(と思っている)ですが、いきなり「独身か?」と言われたのは初めてです。「はい(笑)」と答えると「だろうなぁ、独身じゃなきゃこんなとこに一人で旅行に来られんわ」と鋭いことを言い放つおばちゃん。面白い人です。
そんなセリフにびっくりしながらも丁寧に部屋まで案内してくれるおばちゃん。途中「もうフロには入れますか?」と聞くと「じゃあ入れるようにしとくから、とりあえずゆっくりしとき」ということだったのでとりあえずすぐにさっぱりできそうです。そんなこんなで部屋に到着。
階段を上ったところ。右のドアの向こうは洗面所とトイレがあります
部屋は二人くらいまでは十分に泊まれそうな広さで、掃除もキチンとされていました。写真の右側には窓とテレビもあり、一人旅なので中々快適に過ごせそうです。
フェイスタオルと歯ブラシ、そして民宿ではちょっと珍しいバスタオル付き
部屋の襖には鍵がないのでそういうのが気になる人には辛いかもしれませんが、経験上鍵がないことで何かトラブルがあったことがないので無問題。
部屋に案内されて一息つくと「飲み物は冷たいお茶があるけどあったかいのとどっちが良い?ちょっと暑いから冷たい方が良いか」と冷えた麦茶を1.5リットル瓶いっぱいに持ってきてくれました。やっぱり暑い日は麦茶に限るのでおばちゃんの心遣いに感謝。
部屋でも少し雑談。「兄ちゃん一人で来たんか?」「三日間くらい友達と佐渡を巡ってたんですが今日別れました」「そ〜かい、じゃあ今夜はちょっと寂しいな」とふふっと笑うおばちゃん。確かに夜は色々思い出してしんみりしそうですが、このおばちゃんが中々好人物なので楽しい一晩になりそうだとも思いました。
ちょっと話すとおばちゃんは部屋を後にしたので、少し休憩した後風呂場へ。まだ時間は早いですが、風呂に入ると気持ちも一新するというものです。風呂場は一回の玄関から見て左側にあります。
以前行った七滝荘レベルの狭い脱衣所。もし誤ってだれかが入ってきたら一発で終了です
まさに人ん家のフロといった感じ。でもちゃんと綺麗にしてありました
フロは一人用でしたがそれでもこういった土地で入る家庭的な風呂も気持ちが良いもので、色々と物思いにふけりながらゆっくり入ることができました。ちゃんとシャンプーやリンスもあるのでそこらへんも大丈夫。
風呂から上がって少しおばちゃんと話すと夕食は6時からということなので、少し周囲の散歩に出かけることにしました。
宿の斜め向かいには小さな浜もあり、波がおだやかなので泳ぐにはもってこい
集落にある神社。銅製の鳥居でしょうか、珍しいです。ここではどんな祭礼が行われるのでしょうか
散歩と言ってもすぐに終わってしまうほど狭いエリアなので、ほとんど海を見て過ごしていました。末広荘の斜め向かいにある浜は小さくて人もおらず、心を落ち着けるには格好のポイント。ここでしばらく澄んだ海と夕焼けに染まる空を見ていると、なんだかとてもしみじみとした気持ちになってしまいました。
ある程度しみじみした所で宿に戻ると「おかえり〜」とおばちゃんが出迎えてくれて「夕食になったら呼ぶから、部屋でゆっくりしてて」と、まるで帰省した息子にかけるような言葉をかけてくれる暖かさを嬉しく思いながら部屋へ。テレビを見てのんびりしていると声がかかったので夕食を食べに一回の食堂へと向かいました。
やっぱり佐渡はどこでも海鮮が豊富に出てきて嬉しいかぎりですが、中でも揚げ物は特に嬉しい。さっぱりした刺身なんかを毎日食べていたので脂っこいものが恋しくなってきていたのです。もちろんその味もよく、魚のフライも柔らかくてホクホクしていてすぐに食べきってしまいました。煮付けも味がしっかりしていてご飯のお供にはちょうど良いし、塩辛も変な生臭さもなく美味しかったです。しかし、佐渡の宿は今のところ100%の確率でカレイが出てきますね。
パクパクと食べているとおばちゃんが話しかけてきて色々と話をしました。おばちゃんは話好きらしく、いろんな事を話したり聞いてきてくれたりするので夕食の時間もとても楽しい。「どう?ご飯たりそう?」「これだけあれば大丈夫。すごく美味しいし」から始まった雑談の内容を簡単にまとめると
⭐︎矢島の別荘は、昔はお金を取って見学、休憩できるようになっていて、おばちゃんはかつてそこで働いていた。「あの家は釘を一本も使ずに流木を組み立てて作られていて、当時は床もピカピカしていてうぐいす張りの床は良い音がしたんだよ」とのこと
⭐︎別荘の横にある眼鏡橋では、いけすを作ってブリを養殖して別荘の二階の食事処で出していたが、網を破って逃げたり夜な夜なブリ泥棒がブリを盗んでいくのでやめてしまった
⭐︎夏休みなんかは1日に2~300人くらいたらい舟に乗せるらしい。今年の夏はこのせまい集落の道に車の渋滞ができていた
⭐︎昔は朝に「今日は予約がないな」と思っていても、夜には満室なんてのはザラだった
⭐︎佐渡には災害がなくて良い。しかし物価は高い
⭐︎昔5年間東京に住んでいた。「ああいうとこに行くとワクワクする」とキラキラ顔のおばちゃん
⭐︎矢島の赤い太鼓橋は、今でも夏になると子供達の恰好の飛び込みスポットになっているそうな。私も飛び込みたい。。
そんな興味深く面白い話を夕食の時間中ず〜と話していました。やっぱりこういう地元の話は最高に面白い。しかしあの別荘がかつては観光客に解放されていて、おばちゃんが若いころそこで働いていたというのは驚きました。どうやら今は小木の酒屋の主人があの別荘の持ち主らしく、そうなってからほとんど手入れもされていないそうな。全くもって勿体無いことですが、当時はどんな感じだったのか写真でも見せて貰えば良かったと今にして思います。私もあの別荘の中に入ってみたい。
「友達と別れたから寂しかろ?最近は一人旅の女の子も泊まりに来るけど、あたしは一人旅なんかしたら寂しくなって泣いちゃうよ」と笑うおばちゃんはなんか妙に可愛らしかった。「寂しいかと思ったけど、おばちゃんと話ができたからあんま寂しくなくなった」と言う私に「ははは、そりゃ良かった。次は彼女を連れておいで」と笑いながら返すおばちゃんは、まるで二人目のお母さんのような感じがしてとても温かかったです。ここは間違いなく良い宿だ、とそう思ったのでした。
夕食後「今日の朝釣ったヤマメがあるんだけど、明日の朝焼いてもらって良い?」とやや遠慮がちに聞くと「なんだ、早く言ってくれれば夕食に焼いてやったのに」というおばちゃん。ここは場所柄釣ってきた魚を調理してくれという客が多いらしく、そんなこと遠慮すんなという感じだったので朝食に出すようにしてもらいました。
夕食を平らげた後は、昼間に目をつけていた矢島からほど近いところにある温泉「おぎの湯」へ。佐渡にはいくつか温泉がありますが、佐渡の温泉に入るのはこれで2箇所目です。最近改修したばかりのようで、施設はとても綺麗でした。
いつも思うんですが、こういった施設で髪を染める人って本当にいるんでしょうか
脱衣所に入るといくつか使用中らしいロッカーがあったので客はいるらしい。貸切状態ではないが湯船は広々と使えそうだとちょっとワクワクしながら浴場へのドアを開けると、ムアっと温泉らしい匂いを伴った湯気が体を包んできました。湯船には人はおらず、数人が体を洗っているだけの浴場へ踏み出すと、妙に床がヌルヌルしているのが気になりましたが、そのまま体を洗って温泉に浸かると床のヌルヌルの理由も納得。この温泉自体が、強いヌルヌル感のある温泉ということでした。もう入った瞬間からわかるヌルヌル感は秩父の千鹿谷鉱泉とどっこいと言ったところで、なんだか肌にとても良さそう。入り心地も良く、上がった後もしっとりしている大変に良いお湯でした。昼間だったら、窓からの眺めも良さそうです。
一時間くらいしたところで温泉からあがりましたが、最終的には私を含め二人しか入浴客がおらず大変気持ち良かったです。島にこういう温泉があるのは良いですね。そんな良い気持ちでポカポカしながらおぎの湯を出ても、まだまだ夜は始まったばかりということでまだ宿へは帰らず、夜の宿根木へと向かいました。宿から近いのでとても便利です。
夜の宿根木は昼とはまた違った顔を見せてくれました。昼間に行った時は住民の姿も少なく、ほとんど町の音のようなものが聞こえなかったのですが、夜はそれぞれの家屋からちゃんとテレビの音や住民の話し声、笑い声なんかがそこらじゅうから聞こえてきて「これが本来の宿根木の姿なんだなぁ」と、町の変わりようを面白く思いました。街灯だけを頼りに宿根木の狭い石畳を歩くのは中々オツなもので、住民の生活音を聞いて歩く自分のよそ者感もまた、どこかしみじみとした良い気分にさせてくれました。夜の宿根木、オススメです。
その後宿根木散策を終えて、道路向かいにあるたらい乗り場付近でしばらくぼーっとした後宿に戻り、朝に捕って茹でてもらっていたタコをつまみにしながら夜を過ごしました。友人も無事に新潟港に戻って宿を探しているというメッセージが来たので、私も安心して就寝しました。
翌朝、朝食は8時からということだったので朝の散歩へ。この日も気持ち良い晴天だったので、原付でそこらへんを走りに行きました。
登校中の中学生や、原付に乗って登校している女子高生なんかとすれ違ったりして楽しかった
晴れた朝の爽やかな佐渡を満喫して宿に戻るとちょうど朝食の時間。「ご飯できたよ」とタイミング良く呼んでくれたので、そのまま食堂へ向かいました。
昨日の注文通りヤマメを焼いてくれたおばちゃん。ちょっと皮が焦げ気味だったものの骨まで食べられるくらいに良く焼けていて美味しかった。その他朝食らしいメニューが並びますが、朝でも刺身がでてくるのがとてもありがたい。朝食も夕食同様、量も十分にあってとても美味しかったです。
食事が終わっておばちゃんと話していると「悪いんだけど、これから病院に行かないといけないから先にお金をもらってもいいかい?」と聞いてくるおばちゃん。この日私は12時45分くらいに出発の船に乗る予定だったので、チェックアウトギリギリの10時までここでゆっくりしようと思っていたので「じゃあもうチェックアウトか。12時までどうしよう」なんて考えていたら「船に乗るのは昼頃からだろ?だったら兄ちゃんが出て行く時にドアを閉めてってもらえればいいからゆっくりしてていいよ」と驚きの提案をしてくれました。こういうところはドアに鍵なんてしなくても大丈夫なことは分かりますが、客一人を残して出かけるとは、なんだか嬉しいような心配なような、ともかくおばちゃんの大らかさには脱帽です。やはり民宿泊まりはこういう面白いことがあるからやめられません。
その後しばらく雑談した後に出かけるおばちゃんを見送って、私一人となった宿という貴重な時間を満喫した後10時30分ごろ出発。見送る時「次は彼女を連れて来なよ」とまた言われてしまったので、次に来る時は彼女と一緒に来ようと思います。
※今回泊まった末広荘は、おしゃべり好きのおばちゃんのおかげでとても楽しい一晩になりました。食事も美味しかったし、地元の話を沢山聞けたのもとても良い思い出です。場所柄周囲の環境も良く、たらい船乗り場まで続く道も短いながらそこはかとなく風情があるので、宿泊スポットとしても面白い場所にあると思います。次に佐渡に来るときもまた、おばちゃんに会いに末広荘を利用したいと思います。
<追記>
写真の張り忘れがありました。以下、食堂とトイレの様子です。
食堂。週刊女性 民宿の家という看板が気になります
トイレ。清潔でした
民宿末広荘:一泊二食付き 7560円
民宿末広荘(佐渡観光ナビ)