[塩山温泉・井筒屋別館] 念願の鄙びた自炊湯治宿で心身に効く交互浴を味わう!〜2日目〜

山梨

2025年夏休みの旅4日目です。 [ 1日目 ] [ 2日目 ] [ 3日目 ]

笛吹川で渓流釣り

釣りに行くため4時半にタイマーをセットして就寝後、体感的にはあっという間に起床の時間が訪れた。

イチヤママートはカツ丼も美味いな。量も朝食としてちょうどいい。ここでちゃんと食べておかないと後がきついから、やはりカツ丼の選択は最善だったと言えよう。

今向かってる最初のポイントは、前回どこで釣ったらいいのかわからなかった徳和川。
調べてみたら集落の奥の方にある登山道の途中、あるいは手前から入渓できるという情報を得たので、早朝の一番良い時間は徳和川で竿を出すと決めていた。涼しい山道をスイスイ走りながら徳和集落へと一直線だ。

以前はここらあたりで釣れる場所を探してたけど、今日はこのまま奥に入っていって入渓だ。
集落の先には乾徳山の登山道があるからそこに向かって走っていくと、入渓ポイントのよくわからない空き地に到着したので、そこから川に下りていく。

いかにも渓流って感じの徳和川。覆いかぶさった枝が多いけど、私はウキ釣りだからそういう場所も比較的狙いやすくてポイントポイントを攻めていく。が、全然反応がないな。すぐそこの中村屋(ラーメン屋)の大将から以前聞いた話しだと「道路から釣れる」「よく釣れる」って言ってから、ここは違うポイントなのかもしれない。

まぁ釣れはしてないけど、こういうところで一休みしたり自然を満喫できるのが渓流釣りの良いところ。釣れなくても結構楽しい渓流釣り。
でもまぁやっぱり連れて欲しいから、も少し探索して釣れないなら笛吹川に行こうかな。

そうして魚道をジャブジャブ遡行して釣りを始めると、少し進んだところでようやく魚がヒット!久しぶりの魚の感触を楽しみながら無事釣り上げたところ

釣れた魚は明日の朝食にしようと思ってるからまずは一匹釣れてよかった!そして徳和川もちゃんと釣れることがわかったのも収穫だ。

しかしその後は特に何も釣れず、登山道を上ってちょっと竿を出したりもしたけどやっぱり反応がなかったので、ここらで徳和川は諦めて笛吹川へ行くことに。そっちは実績があるからあと数匹は固いだろう。

ここらへんはわりと下流の方だけどそれなりに釣れるから期待も高まる。
徳和川とは違ったやや広めの川をザブザブ進んでいくと、すぐに木々が茂った良い渓相になってきて、ここらへんから大体釣れ始めるのが私の経験則。なので丁寧にいろんな場所を探っていくとすぐに、さっきよりも強いアタリでグイグイ引っ張る何者かがかかった!テンションがあがりつつもしっかり陸に引き上げてみると

その後数匹をプラスで釣り上げたところで対岸に道に戻る道があったので、このあたりの散策はそろそろやめて違うポイントに移動することに。今日は行ってみたい新しいポイントが色々あるからな。
というか、あまりに暑いから何かジュースでも飲みたい。

その後色々寄り道をしながら、さらに上流にある天科発電所へ。
到着してみると、発電所横の橋の向こうに渡ったところで入渓できそうな場所+駐車に良さげな場所を発見。しかしなにやら湘南ナンバーの車とその脇におじいさんが一人立っている。釣り人ではなさそうだけど、ちょっと話かけてみよう。

私「ここから川に下りられますか?」

おじ「はい、こっから行けるようになってるみたいですよ」

私「僕もここ駐めさせてもらっていいですか?」

おじ「どうぞどうぞ。川遊びですか?」

私「いえ、釣りをしようかなって」

おじ「釣りですか。鮎とか?」

私「いえ、ヤマメとかアマゴとかですね〜」

おじ「はぁ〜そうですか。私は今孫を連れてきてまして、孫は下で川遊びしてますよ。そこから下りられるんで」

と、おじさんは上から川遊びを楽しむ孫を見守っているらしい。
親切なおじさんは原付を駐めやすいように、車をちょっと動かしてくれたりしてとってもいい人。そんなおじさんにしっかりお礼をして、初めてのポイントにワクワクしながら斜面を下りていった。

すると網を持って魚とりをしてるお孫さんが見えてきたので、いきなり現れてびっくりさせないようになるべく優しめに挨拶した。

私「こんにちは〜。何か取れた?」

孫「こんにちは。いやぁ、小さいヤマメは捕れましたけど」

私「すごいじゃん!でも死にそうになってるね。これどうするの?」

孫「ん〜、一匹しかいないし逃がすとか・・・」

私「そっか。でもこの感じだと逃がしても死んじゃうだろうから、持ち帰って食べちゃえば?」

孫「死んじゃいますよね。じゃあそうしてみます」

私「うん。じゃ、気をつけてね」

孫「はい、行ってらっしゃい」

歳(見た目)のわりにかなりしっかりした受け答えのイケメン孫だった。しかし網でヤマメを捕るとはすごい子だ。旅の中であれくらいの歳の子と話すことがないから、なんかほっこりしてしまった。

思ったよりも釣りやすく、かつ綺麗な川を竿を出しながらゆっくり遡行していく・・・・が、全然反応がない!魚の影も見えずアタリもなく、どこまで行っても私のセンサーに生体反応が受信できない。入渓しやすいから叩かれまくってるのか放流されてないのかわからないけど、とにかくこのあたりに魚の反応は全くない。

ただ汗と体力を消耗するだけの遡行。しかも直射日光がヤバくてジュースが飲みたくてしょうない。。というところにようやく退渓ポイントが見つかったので、もうここらへんは諦めて原付のもとへ戻ることにした。初めてのところで楽しかったけど、まさかこんなに釣れないとは思ってもみなかったな。

そうしてジュースを飲んで渇きは回復したところで、せっかくはじめての場所に来たので周辺を散策してみることにした。

なんとなくやって来たけど、雰囲気もいいし那賀都神社というのも知れたし良い散歩だ。しかも見た感じ、この神社は力のある古社っぽい感じがする。本当ならぜひ参拝したいところだけど、地図を見ると結構歩くことになりそうで、この暑さでは死にかねないので止めておいた。いつか参拝しに行きたいところだ。

そんなことをしていたら、いつの間にか時刻はもうすぐお昼というところまできていたので、ここらであのラーメン屋に向かうことに。もうちょっと釣りはしたいけど、それは食べながらゆっくり考えよう。ともかく、一刻でも早くこのギラギラ太陽から逃れて腹を満たしたい!

店に入ると、前回喋ったがあの若い男の子が、あの時と同じ親しみやすい笑顔で「いらっしゃいませ〜」と出迎えてくれた。まだ働いてくれてたのか、というちょっとした驚きもあったけど、あの時より背も伸びて、なんかさらに男らしくなってる彼を見たらちょっと嬉しくなってしまった。別に親しいわけじゃないけど、時の流れにしみじみするぜ。

朝早くに起きて散々汗をかいたあとのラーメン、とんでもなく沁みる。やはり夏の昼飯は塩分脂分がスルスル摂取できるラーメンが一番だ。ここのラーメンの味も気取らない感じでいいんだよな。正直とんこつ感はやや薄めだけど、それでも十分美味しい一杯ですぐに完食してしまいました。

今回は席の関係でお店の人と喋ることはできなかったけど、食べてる間に「もう1回だけ釣りしてから帰るか」と決めたので、釣れる確率高めな一之橋館周辺で最後に楽しんでいこう。

ちょいちょいアタリはあるもののうまくかけられず、気づけばまた汗を流しながらそれなりに遡行してきてしまった。まぁ釣りしてるだけで楽しいからいいっちゃいいんだけど、できればもう一匹ぐらい釣りたいな・・・・・と思ってたら、いきなり仕掛けの近くにギラっと光るものが現れて、一瞬で餌をひったくっていった。これは今日一の引き!絶対釣り上げなければッ!!

最後は釣れないまま帰路につくことになるか思ったけど最後の最後で来てくれた良型!引き味も良かったし、何よりこれで明日の朝食はばっちりだ(というか食べきれないかも)。
これで今日の釣果は6匹。十分楽しんだし、これにて宿に帰るとする!

宿の方との交流と温泉

そうして無事宿に戻ってガラガラと引き戸を開ける。これから温泉に入れると思うと楽しみでしょうがないので、そのテンションのまま「戻りました〜」と声をかけた。

ご主人「は〜い、釣れましたか?」

私「6匹ぐらい釣れましたよ。結構疲れました」

ご主人「お〜良かったですね。じゃあゆっくりお風呂入ってください。」

私「ありがとうございます〜。あとおじさん、釣った魚いらないすか?」

ご主人「ううん、いらない。あ、でも上の人にあげたらいいかも。今泊まってる人、そういうの好きだから」

ご主人の「ううん、いらない(即答)」に吹き出しそうになったけど、そのかわり今泊まってるお客さんに声をかけてくれるみたいだ。ご主人に導かれて2階へ向かう私。

ご主人「◯◯さ〜ん、お客さんが釣ったアマゴいらない?」

すると奥からラフな格好の奥様とにこやかな旦那さんが出てきてくれた。

私「さっき釣ってきた魚があるんですけど、僕一人じゃ食べ切れないんでよかったらどうですか?」

奥様「本当ですか?でも私さばいたりできないからどうしたらいいか」

私「内蔵とかはもう取ってあるんで大丈夫ですよ。えっと、こんな風にぬか漬けみたいになってますけど」

奥様「え〜すごい。じゃあこれどうしたらいいですか?」

私「ぬかを洗い流して普通に焼いてもらえれば大丈夫ですよ。余計な水分が抜けて美味しくなってると思います」

奥様「あ〜そうなんですね、ありがとうございます〜。え〜と、何をお返ししたらいいのか・・・」

私「いやいや、大丈夫ですよ。もらっていただけるなら僕も助かるんで」

奥様「ビールとか飲みます?」

私「いや、お酒はあんま飲まないっすね」

奥様「じゃあ甘いものは?桃なんかどうですか?」

というわけで、アマゴと物々交換で大きくてよく熟した美味しそうな桃をいただいてしまった。
なんかこういう交流いいな。凄く優しそうな人たちだし、こいうことができるのも湯治宿ならではって感じ。ご主人に感謝だ。

私「立派な桃ありがとうございます^^v アマゴ足りなかったら言ってください。おかわりあるんで」

奥様「うちの主人がこういうの好きなんですよ、ありがとうございます!」

そんな感じで奥様も旦那さんも喜んでくれて良かった良かった。この立派な桃は、夜食か明日の朝食時にでも食べるとしよう。

その後1階に戻っていくご主人に近くにコインランドリーはないかと聞いてみたところ、「コインランドリーはうちも使ってるとこありますけど、洗い物あるんだったら今日特別でうちの使っていいですよ。今日母さんいないから特別ね!」ということで、井筒屋洗濯機を使わせてもらえることになって更にうれしい私。まったく、良い人しかいない宿で本当に居心地が良いぜっ。

温泉宿で連泊ってやっぱいいな。こうして早朝から昼間で釣りして帰ってきたら、気持ちの良い温泉と寝床が待っている。チェックイン・アウトを考えないで、ここを拠点にしていつでも出かけられるってのは本当に嬉しいもんだ。何より温泉が待ってるってのが一番心に効く。
じゃあ軽く洗濯して、そのまま温泉に入りに行こうかな!釣りの疲れを癒しに!

この静か〜な浴室がいいんだよな。夏の昼日中からたった一人、この静かな温泉を独り占めできる幸福。なんか妙に郷愁をそそるというか、なぜかそこはかとなく儚さを感じて好きなシチュエーション。

というわけでささっと体を清潔にしてからまずは沸かし湯のほうへ。やっぱり最初は沸かしに湯に入ったほうが、体の疲れ+こわばりが一気にほどけていくようで気持ちがいい。散々汗をかいて運動してきた後だからなおさら沁みるものがある。

そして身も心もふやけたところで26度の冷泉に身を投じて一気に冷やす!これこそが山梨流交互浴健康法っ。

冷てぇ!完全に温まったとはいえやはり冷たいし、昨日の体の慣れが完全にリセットされてる気がする。ふやふやになった肉が一気にきゅっと引き締まるのを感じるレベルでっ。

しかし歯を食いしばって肩まで浸かればあとは天国。あとはこの静かな昼のひとときを、この冷泉にただよいながら過ごすのみ。コレが私の日常だったらどんなに良いことか。

さて、これで今日やるべきことは大体終わったわけだけど、明日のことはちょっと悩んでいるところだ。まだ夏休みは数日あるからこのまま旅を続けられるんだけど、場所的にもうあまり行くところもない。明日泊まるとしたらしたら道志村あたりが良いだろうけど、そのまま帰ることもできる距離だし、でもこれで夏休みの旅が終わるのもなんか寂しいし、と悩んでいるところだ。

というわけで一応天気を調べてみるかと思ってスマホを開いてみると、どうやら明日は晴れだけど、明後日は雨予報のようだ。うん、決定。明日はそのまま帰ります。今回は井筒屋で最後だから、明日のチェックアウトまでしっかり楽しませてもらうことにしよう。
今日の夜は前に一度お邪魔したデカ盛りの店の花藤に行くつもりだから、それまでは完全な自由時間だ。

その後ほんのちょっと仮眠をとったあと、原付まで荷物を取りに行ってガサゴソしているところにご主人がやってきた。

ご主人「バイクいいですね。私も2年前くらいに買ったんですよ、そこら辺に行くために。」

たしかに私の前に新し目の原付が駐まってる。これはご主人のだったのか。

私「あ〜これおじさんのだったんすね。新しいなって思ってました」

ご主人「そこらへんに行くにはいいですよ。これで駅まで行って東京行ったりとか」

私「え?東京に何しに行くんですか?」

ご主人「ちょっとアルバイトでね。ちょくちょく東京の◯◯の方に行ってるんですよ」

宿屋のご主人が東京でアルバイト?そうでもしないと経営が厳しいのか・・・・?と失礼な想像をしてしまったが話を聞いていくとそうではなく、なんとこのご主人、ただの(というのも失礼だけど)宿のご主人ではなく、刀剣、その中でも刀装具といわれる部分に関して、日本でも指折りの鑑定士なのだという。つまり鑑定のアルバイトで東京に行っているというわけだけど、そうなると、向こうからお願いされてバイトに行ってるというのが正しいところなんだろうな。
まさかこんなラフな格好のご主人の裏の顔(?)が日本有数の鑑定士だったなんて・・・、正直めちゃくちゃカッコいいぜ!刀装具とは何か、バイト先でどんなことをしてるのかっていう私の全く知らない世界の話を聞かせてくれてただただ関心しきりだった。

その後いろいろ聞かせてくれたあと「すいません、長々と自慢話しちゃって」と去っていくご主人の後ろ姿は、もはやこれまでとは違う人物の背中を見ているようだった。なんかゲームや漫画でよくある、なんでもないキャラが実は凄い人だったってのをリアルで体験したような気分だ。あとで時間があるときに、チャンスがあったらまた話を聞かせてもらおうかな。

大盛りの店花藤で食べる夕食と夜のひととき

というわけで店前の椅子に座って待っていたら18時半きっかりにお店の人が声をかけてくれたので、一番乗りで店内へ。待っている間に他にも人が来たからポツンではなくなってちょっと安心。店内は相変わらず昭和感バリバリでこれまた安心する。

さて、前回はモツ炒め定食かなんかの大盛りを無理して完食して、次の日まで心臓が痛くなったという苦い思い出があるから、今日は無理せず普通盛りでいかしていただこう。
注文したのはからあげ定食普通盛り(1500円)。ここはただデカいだけじゃなくて味も良いから、これはどれほそだろうと口コミで美味いと評判のこちらを注文しさせてもらった。

中央にドドンと置かれた丸々一本のマヨネーズもさすがだけど、それよりも唐揚げのデカさが想像してたよりもヤバい!もも肉を半分に切ったものを揚げてるのだろうか、とにかくビッグサイズの唐揚げが山のように5つも盛られた迫力満点の定食だ。ご飯も日本昔話みたいになってるし、これで普通盛りとはさすがデカ盛りの店。

しかし一番重要なのはその味だ。評判の唐揚げの味はいかなるものかとワクワクしながら一口食べてみると、たしかにこれはただデカいだけじゃなく、サクサクジューシーでじゅわっと肉汁が溢れるとても美味しい唐揚げでなんかちょっと感動。しかもほんのりケンタッキー風味のする、個人的にかなり好きな味付けだ。この値段で美味い唐揚げを腹いっぱい食べられるなら全然いいな!

しかし残念ながら、あまりの量の多さに最後の一個の唐揚げを残して私の腹はギブアップ。外食ではなるべく残さないことを信条にしているけどさすがにもう限界だ。他は全部食べたから・・・と言い訳をしつつ、パンパンの腹でお店を後にしたのだった。

ちなみに会計時、何かしらのキャンペーンをやっていて、大きなサイコロを振った結果ティッシュ箱をひとつもらった。さらに定食を持っている間、どういうわけか店員さんが無言で桃をくれたので、ティッシュ箱と桃という思いがけない戦利品を持っての帰宅となったのだった。

私「戻りました〜」

ご主人「はいはい、お帰りなさい」

私「おじさん、今食べてきたとこでティッシュ箱もらったんですけどいらないすか?」

ご主人「じゃあお客さんとこの机の上に置いといてください。ありがとうございます」

またアマゴの時みたいに即答で拒否されたらどうしようかと思ってたけどよかったよかった。
2階にあがると魚を焼いた匂いがほんのり漂ってたからお隣さんもちゃんと食べてくれたっぽい。美味しく食べてくれてたらいいんだけど。

その後部屋でちょろっと荷物整理などをしてから、心もスッキリした状態で風呂へ。まだまだお腹もパンパンで、本当は食後すぐの風呂はいけないらしいけど、この状態で風呂でのんびりするのが最高なんだ。

そうしてタオルを持って一階に行くとご主人とかち合って、「あがったらちょっと顔だしてください。もうちょっと自慢話させてもらいたいんで」とのこと。自慢話とはご主人の特殊スキル「鑑定」についてだろうけど、私としても面白い話を聞けるまたとないチャンス。今回は沢山話しもできて最高だな。もちろん即答でOKしてそのまま風呂へ向かった。

花藤で普通盛り(大盛り)を食べて戦闘状態を未だ維持してる体に、この26度の源泉が沁みに沁みる。聞こえるのは私が動いた時に出る水音ぐらい。心身ともに今落ち着きを取り戻しているのを感じる。

この素敵な温泉とも明日でお別れだけど、明日はただ帰るだけだし、チェックアウトはかなり遅めにしようかな。ここはチェックインもアウトもかなり緩いから、チェックアウトがお昼くらいになっても全然問題ない。ご主人も「そうですか、わかりました」というごく普通の返事だったのが最高だ。だから明日は帰る前にお土産の桃を買って、散歩して、温泉を楽しんで、ゆっくり帰ることにしようかな。うん、これでいこう。

その後しっかり体を冷やして1階へ行くと、帳場前にしっかり椅子が用意されていた。ご主人、ノリノリで待っているらしい。「あがりました〜」と声をかけると、「はいはい〜」と返事をして奥から出てきてくれた。

結果として、それから1時間に及ぶ雑談の中で、刀剣外装・鑑定士・女将さんの趣味・ご家族などなど色んな面白い話をしてくれた。

・ご主人は日本有数どころか世界No.1の外装鑑定士
・鑑定士は真贋を見極めてランクをつけるのが仕事。値段を決めるのは鑑定団に出てるような商売人の鑑定士
・鑑定の際は品数が多いので流れ作業で決めていって、その後学芸員とディスカッションして最終的な評価へ
・以前お呼ばれでカリフォルニアに鑑定をしにいった際に州から感謝状をもらったようで、凄く立派な感謝状をみせてくれた
・女将さんは登山が趣味で日本百名山を踏破。海外の有名な山(モンブランなど)にも登ったことがあるらしい
・娘さんはスティールパン奏者(玄関横でCD売ってる)

などなど、他にも興味深い話を色々と話してくれた。ご主人も楽しそうで、流れで女将さんとの昔の写真なんかも見せてくれたけど、色褪せたかつてのお二人の写真を眺めていると、凄くノスタルジックでほっこりした気分になってしまった(しかもイケメンと美女だった)。

しかし中でも、鑑定の時は流れ作業でやっているというのが印象的だった。私はてっきりひとつひとつ隅々まで見て判断してるもんだと思ってたから、「鑑定する時はどうやってるんですか?」と聞いた時、「勘ですよ」と返ってきたのが意外で、そしてかっこよかった。
こういう人の勘っていうのは私みたいな素人とは全く質の違うもので、その一瞬にこれまで経験や知識が凝縮されているものだ。「勘ですよ」の一言にプロの凄みみたいなものを感じて、見た目にはただの田舎のラフなおじちゃんなのに、このギャップがたまらなくてめちゃくちゃかっこいいわ。

そして話も終盤に差し掛かったころ。

私「いつもお客さんとこうして話したりしてるんですか?」

ご主人「いやいや、しないですよ」

私「じゃあなんで今日は?」

ご主人「お客さん原付乗ってきたから。なんか気ままに生きてる感じがいいなって思って」

おじさんも風来坊というか、雲みたいにフワっとした印象の人だから、私に自分と似たような雰囲気を感じ取って気に入ってくれたのかもしれない。そのおかげでこうしてご主人と顔を突き合わせてじっくり話すことができたのは、私にとってかなりレアで素晴らしい時間だった。しかもお相手は宿の主人+世界一の鑑定士というフィクションのような肩書を持つおじさんだから、なおさら濃い時間で最高でございました。

さすが産地だけあって、やっぱり山梨の桃はおいしいな。噛むと溢れ出てくる甘い果汁に柔らかな食感の果肉。夏の旅はやっぱり地場の果物を食べることが最高の楽しみのひとつ。あまりにうまくてあっというまに完食してしまった。

思わぬ幸運と朝の散歩

スマホを見ると今は7時半。時間に余裕があるからアラームは設定しなかったけど、自然と良い時間に起きれたみたいだ。今日も天気は良いらしく、窓越しに空の青が覗いているのがわかる。

ここで二度寝に入るのもいいんだけど、せっかくだから目覚ましに原付散歩でもしてこようかしら。

その後トイレを済ませて部屋に戻ろうとすると、後ろからお隣さんに声をかけられた。

奥様「おはようございます〜、昨日はお魚ありがとうございました」

私「あ、おはようございます〜。アマゴ美味しかったですか?」

奥様「主人が二匹とも食べちゃって、美味しそうに食べてましたよ。焼きすぎって言われちゃいましたけど」

私「ハハハ、でも美味しく食べてもらえてよかったです」

奥様「これからご飯ですか?」

私「はい、そこで魚焼いて食べようかなって」

奥様「あ、そうなんですね。私たちもこれからなんですけど、よかったら一緒に作りますけどどうですか?」

私「え、いいんですかっ?」

奥様「はい、トーストとか目玉焼きとかそういうのですけど」

私「いや、めちゃくちゃありがたいです!お願いしますっ」

奥様「コーヒーとかもありますけどどうですか?」

私「コーヒー好きなんでありがたいです」

奥様「じゃあ作ったらお持ちしますね。30分くらいかかると思いますけど」

まさか魚をあげた縁で、桃のみならず朝食までいただけることになるとは!なんかこうして宿泊客同士での食べ物のやりとりって新鮮で凄く楽しい。寮生活をしてる住人同士の交流みたいな心温まるなにかを、今心の底から感じている!奥さんもにこやかで優しいし、魚は美味しかったらしいし、全く朝から最高だぜ。
30分位かかるって言ってたから散歩にもちょうどいいな。洗濯物をとってから散歩に出かけるか。

肌をなでる風も気持ちよく、そのまま昨日行った直売所が並ぶ通りに一直線。
まだ早い時間なのに直売所にはもう桃が並んでいて、さらに買いに来てる人もちらほらいる感じ。まぁ昨日のあの時間でまだ桃は売ってたから、今買う必要はないかな。もうちょっと時間がたったら買いに来よう。

大きさはそれぞれ違うみたいだけど、大きい桃3つで500円、やや小さめのハネ出しっぽいの5つで500円と、ここもしっかり500円ルールで売られてるみたいだ。しかし他との違いは、やっぱりこのしっかりした段ボール箱に入ってること。ここは人気な直売所みたいだけど、その理由も分かる気がする。

少しかさばるけど、家までの道のり、やっぱり箱に入ってるほうが安心感はある。ギリギリリアカゴに載せられるとは思うけど、ちょっと微妙なところかな。まぁそこらへんは、後で買いに来た時に残ってたら買うかどうか考えよう。

ノスタルジックで美味しい楽しい朝食

宿に戻って2階にあがるとほんのり漂う良い匂い。どうやら奥さんはただいま朝食作りの真っ最中らしい。
良いタイミングで帰ってこれたみたいだから、私は私で魚をやくことにしようかな。

この時代がかった狭い台所で、椅子に座って焼き上がりを待つこの時間の愛しさよ。まるでここだけ昭和の懐かしい時間が流れているようだ。アマゴの焼き上がりを見ながら座ってるだけなのに妙に心落ち着くこの不思議。正直、今が一番井筒屋を味わえてる気がするな。

と、そうしていると奥からトットッと足音が聞こえてきた。どうやら奥さんが朝食を持ってきてくれたらしい。

奥様「お待ちどうさまです〜。ここでいいですか?お部屋の中でいいですか?」

私「いや、ここで魚の世話しながら食べるんでここでいいですよ。ありがとうございます〜」

奥様「お魚とトーストじゃ合わないかもしれないですけど(笑」

奥さんがいそいそと持ってきてくれたお盆の上には、綺麗に仕上がったトーストや目玉焼きのプレートがどどんと乗っかっている。目玉焼き意外にもサラダとソーセージも盛り付けられていて、さながらホテルの朝食のような品揃えに私もすっかり嬉しくなってしまった。魚と引き換えに上等な桃と朝食とは、本当に世の中何があるかわからないなっ。

まずはこの中でも淡白なアマゴから。
うん、皮はパリパリで、身はふっくらと焼き上がっててやっぱり安定の美味しさだ。意外と川魚らしい香りは控えめで、どういうわけか家で焼いて食べるよりもずっと美味しい。これは奥さんの言う通り、ご主人もきっと喜んでくれたことだろう。

いただいたトーストもバターがしっかり塗られていて、そこに目玉焼きを載せてラピュタパンにしたら、サクサクじゅわっとした食感にバターと卵の濃厚タッグが手を組んで、これぞ素晴らしい朝食といったところだ。ソーセージもサラダももちろんうまいし、お隣さんのおかげで本当に最高の朝食になったぜ!

食事が終わったら、今度はすぐに食器をあらって、もろもろ向こうの台所に返しに行ったあと、今日はじめての温泉へと向かう。この2日間で心なしか肌が滑らかになった気がするし、もう今日でお別れだからしっかり入っておかないと。

しかし井筒屋のこの時間の風呂は一番良いな。薄暗い浴室に差し込む柔らかい光がそこはかとなく幻想的で。この浴槽がタイル張りでなんとなくプールっぽいから、うっすらリミナルスペースっぽい感じもあったりしてとにかく非現実感がある。それでいて至って静かだからリラックスしまくりでいいことだらけだな。
それでももうちょっとでこの温泉ともおさらばというのは本当に残念だ。帰るまでにあと1回くらい入ったら終わりだろうし、今は時間を気にせず楽しむのみ。

風呂上がり後は桃購入+散歩のために原付のもとへ。
でもその前に駐車場でコーヒーを飲んでいたら、相変わらずラフなファッションのご主人がトコトコやってきた。

ご主人「今日は涼しくていいですね〜」

私「そうすね、朝から涼しくて助かりました。でもこれからどうなんですかね」

ご主人「これから暑くなるでしょうね〜。今は雲があるからいいですけど」

そんな話をしていると、ご主人は車庫の中にある軽のカーゴスペースに座ったので、そこからがっつり雑談モードへ。今回は宿の人との会話が多くて本当に最高だ。

・田舎は金持ちが多くてすぐに車を買い替えるから軽が安い
・ご主人も車で東北とかに温泉旅行に行きたいけどアルバイトがあるからなかなか行けない
・鑑定士は後継者不足
・道路向かいにある井筒屋本館のあれこれ
・宿はのんびり営業
・以前は宿の中でタバコが吸えたけどとある理由で館内禁煙に
・バイクで来る人はそんなに多くない。若者も泊まりに来るけど自炊はしない

などなど、今回もいろいろな話題に花が咲く。話好きなおじさんだけど私にも話題を振ってくれるし、こっちはこっちでおじさんの話を聞くのが楽しいし、話してるとすぐに時間がたっちゃうな。こういう現地でしか知り得ない情報は私の中でも宝物だ。

そんなこんなで40分ほど話した後、

ご主人「これからどっかに行かれるんですか?」

私「これからお土産に桃を買いに行こうと思って」

ご主人「あ〜そうでしたか、なんか引き止めちゃったみたいですいませんでした」

という感じであっさり雑談は終了。私としては全然かまわないんだけど、ご主人はまたトコトコと宿に戻っていった。
じゃ、それなりに良い時間になったし、散歩がてら桃を買いに行くか。

お土産の桃購入、そして出発へ

こういう古い映画館って地方にちょこちょこあるけど、ここはまだ現役で色んな映画を上映してるらしい。きっと中もそれなりに年季を感じる造りになってるんだろうから、いつか機会があったら映画を見に行ってみたいな。

そうしてまずは第一候補の幸福ファームへ行ってみたところ、11時を前にもはやロッカーの中身はすっからかんになっていた。たしかに数こそ多くなかったものの、さっきの散歩からせいぜい2時間程度しか経ってないのにもう全て無くなってるとは、さすが口コミ通りの人気直売所だ。やっぱり箱に入ってるってのがでかいのかもしれないな。

三喜園という果樹園の直売所はお客さんが数組いて人気っぽかったけど、その手前にある青柳農園というところも見た目もほぼ変わらないような美味しそうな桃が売られていたのでここで買うことに。

「美味しそうでございますなぁ・・・」と眺めていると「いらっしゃいませ〜」とおばあちゃんがやってきて色々説明してくれた。

おば「これが川中島白桃で、これがなつっこっていう桃ね。なつっこは固めの桃ですけど甘くて美味しいですよ」

パックによって数も大きさも微妙に違って、川中島となつっ子という桃の2種類が別々で売られているらしい。なつっ子っていうのははじめて聞いたからこっちを買ってみたいけど、バイクで持って帰るから、桃に被せる網のクッションみたいなやつがあったら嬉しいなと思って聞いてみた。

私「バイクで持って帰るんですけど、もしあったらクッションになるようなのないですか?」

おば「(探してくれながら)ちょっとないですね〜。なつっこは固いから、バイクでも大丈夫だと思いますよ」

私「そうですか、じゃあこのままで大丈夫なのでこれください。ありがとうございます〜」

というわけで7個くらい入ったなつっこのパックを購入。まぁこれくらいの大きさならメットインに入るし、カッパでも下に敷いておけば大丈夫だろう。無事にお土産の桃が買えてよかったぜ!

優雅なティータイムを楽しんだ後、奥さんに借りてたオリーブオイル(焼き網に塗る用)を向こうの台所まで戻しに行くと、ちょうどよく何かしらの雑誌を持った奥さんとかちあった。

奥様「朝ごはんどうでした?」

私「めちゃくちゃうまかったですよ!あんな豪華なご飯食べれると思ってなかったんで、ありがとうございます」

奥様「良かったです〜。それでですね、ちょっとお聞きしたいんですけど、環状道路のこととかわかります?」

どうやら後日身延の方まで行く予定らしく、それにあたって良い行き方はないか探しているらしい。
環状道路のことはわからないけど、身延には行ったことがあるから、個人的に車でも走りやすくて眺めも良いと思われる道を教えてあげた・・・・けど、望んでた答えを返せたかはわからない。

私「すいませんお力になれなくて」

奥様「いえいえ全然。じゃあそんな感じで行ってみますね。あと、主人が釣り場のことを聞きたいって言ってるんですけど・・・いいですか?」

私「あ、そうなんですね。もちろんいいですよ。」

奥様「ありがとうございます〜。お父さ〜ん、お兄さんが釣りのこと教えてくれるって〜」

と奥さんが声をかけると、奥の客室から昨日と同様にこやかなご主人がスタスタやってきた。

ご主人「あ〜どうも、わざわざありがとうございます」

私「いえいえ、釣りされるんですか?」

ご主人「主に海釣りですけど、時々渓流もやったりするんですが、下手くそでいつも逃げられちゃって。ハハハ」

私「渓流魚は警戒心高いですからね〜。で、釣り場なんですけど・・・・」

というわけで時々渓流をやるご主人のために、マップを使って笛吹川の入渓ポイントをいくつか教えてあげた。笛吹川では釣りをしたことはないけど地理はわかってるらしく、「あ〜なるほど」という感じで理解しながらウンウンを聞いてくれている。

ご主人「なるほど、よくわかりました。秘密の情報を教えてもらってありがとうございます」

私「いえいえ、釣れるといいですね。お時間がある時に行ってみてください」

話によると数ヶ月に1回はここに連泊しに来てるみたいだから、どっかのタイミングで釣りしに行ってみてほしいところだ。というか、またいつかここで出会って一緒に行けたりしたらいいな。

その後また温泉に入ったりしてダラダラ時間をしっかり味わったあと、12時30ごろに荷物を担いで帳場へ向かう。
「どうもありがとうございました〜」と声かけて、また少しばかり座って雑談をした後にしっかり精算。女将さんはまだ帰ってきていないようだったので、女将さんへのお礼の言葉もしっかり伝えておいた。

ご主人も一緒に外に出て、私が荷造りしているのを見守りながら最後までしっかり見送ってくれた。
「お客さんの名前覚えておくので、またいつでも泊まりに来てください」とありがたい言葉をもらい、ホンワカした心のまま、「また絶対来ます!」と約束して、後ろ髪を引かれまくりながらもその場を颯爽と後にしたのだった。

そうして山越え峠越え、夜頃には無事に我が家へ帰宅。桃も完全無事で、後日美味しくいただいたのでした。


今回ようやく泊まれた昔ながらの湯治宿、井筒屋さん。そこは私が思っていた以上に温かく、懐かしく、過ごしやすい宿でした。
泊まりに行く前はまさかこんなに交流が生まれるとは思っていなくて、この2日間は私にとってとても濃厚で思い出深いひとときになりました。

記事内にある通り、宿には冷蔵庫や電子レンジ、調理道具一式が揃っており、自炊するに必要なのは食材と調味料だけ。近くに大きなスーパーがあるので、必要なものはすぐに調達することができます。
宿の中は年季が入っていますが全てが清潔に保たれているので居心地が良く、虫を見ることもありません。部屋にはしっかりエアコンもあるので、宿での生活は快適そのものです。さらに気持ちの良い温泉まであるので、もはや文句のつけようがありません。

ここで初めて、宿で自炊する楽しさを知りました。すでに失われた懐かしい空気がこの宿には残っていて、自炊することでそれを120%味わうことができたと思います。

個人的に、宿の設備、綺麗さ、雰囲気、温かさ、温泉の質、どれをとっても最高の宿だと思います。
こういう宿が好きな方もちょっと抵抗がある方も、まずは一度行ってみることを強くオススメします!

ちなみに、この宿は一部で座敷童が出ると言われていますが、それを確かめに泊まりに行ってみるのも楽しいかもしれません。

井筒屋別館: 一泊素泊まり 5,760円 (税・エアコン代込)

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